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後ろの正面

八日目の蝉

ずっと前に一度読んだけど、こちらを見たらまた読みたくなって再読。

「八日目の蝉」(角田光代)

長いです(笑)



裁判記録を読むのが好きと言う角田さんの作品は

「森に眠る魚」同様、実際の事件をモチーフにしたものが多い。

「八日目の蝉」は日野OL不倫放火殺人事件がベースになっていると思われます。

不倫の果ての妊娠、中絶。

不倫相手の幼い子どもに執着する点などなど。

そこから先は角田ワールド。

何度読んでも泣けて泣けて胸がキュン。

イッキ読み間違いなしです。読むならたっぷり時間がある時に。



物語は、不倫の末に妊娠し不本意ながら堕胎。

二度と子供を抱くことが出来なくなった希和子が不倫相手の子どもを誘拐

逃亡するところから始まります。



逃げて、逃げて、逃げのびたら、私はあなたの母になれるだろうか。



希和子にとってその子はかつて彼女が望みつつも失った子供。

どうしても取り戻したかった我が子だった。

この湿った温かさ、柔らかさ、そして重さ。

犯罪であると分かっていても、手放すことはもう出来ない。



友人の家を出た後、名古屋で声をかけられた老女に付いて行くと

そこは生活の匂いがない空き家のような家だった。

米も醤油も何もない。

作者は言う。

米を買う、醤油を買うということは明日もそこで暮らすという保証であると。

ドキッとした。

当たり前のように米を買い、醤油を買い、あれもこれもと欲張って

さらに足りないものを数える自分の愚かさを、まるで見透かされたような気持ちになった。

迷いながら小さな醤油の瓶を買い、あれこれ買って片手に薫を抱きながら

片手にスーパーの袋の重みをうれしいと思う希和子が健気でいじらしくてたまらない。

ページをめくりながら、少しの間でいいから喜和子と薫に静かな時間を与えて。

誰も来ないでと願う。

ところが思わぬところから追手の影が忍び寄り・・・。



次に逃げ込んだのはエンジェルホームという外界から隔離されたコミュニティ。

そこで二人は二年もの時を過ごす。



またもや逃げなきゃならないはめに・・・。



次に向かったのはホームで一緒だった久美の実家がある小豆島。

瀬戸内の穏やかな海のそばで優しい島の人たちに支えられて

束の間二人は凪ぎのような時間を過ごします。

どうかこの生活が守られますように。

いつまでも続きますようにと祈りにも似た思いでページをめくる深夜3時。

別れは突然やって来る。

読みながら「逃げて。捕まらないで」と願う自分がいた。



そして第二章。

実の両親のもとに戻された恵理菜(=薫)は自分の居場所を見つけられずにいた。

父と母も戸惑っていた。

冷え冷えとした空気、片付けられない部屋、

家族でありながらとても家庭とは言えないような場所で

光り輝く海と緑の島を思いながら

希和子を恨み、全てを希和子のせいにすることで現実を生きようとする恵理菜。

そんな彼女の痛みを軸に

かつてエンジェルホームで一緒だったマロンこと千草の助けを借りながら

あの事件と向き合い始める。

そして自分は輝く海に囲まれた緑のあの島で

優しかった母、希和子と一緒に暮らしたかったのだと思う。

さらに実母もまた悲しいほど母だったことに気付く。

懐かしい島へ渡るフェリー乗り場で、腹に不倫の結果の子の胎動を感じながら。



ひな鳥は一番最初に目にしたものを親鳥と思い込むという。

刷り込みである。

薫がまさにそれだった。

物ごころが付く前に一番愛情を注いで育ててくれたものを親と認めるのは

人間や鳥に限ったことじゃなく、例えば犬が猫を育てたりという話も聞く。

それをある日突然引き離されて、はいこれが本当の親ですよと違う場所に移されたって

納得出来るわけがない。

動物に至っては自分の子と認められず殺してしまうものもいるという。

まして薫は希和子の暖かな羽の下、献身的な愛を惜しみなく注がれて育ったのだ。

希和子は薫のためだけに生きていた。

お金も名前も何もかも、薫と一緒に居るために持っているもの全てを捨てたのだ。

薫と一緒に居られるなら犯罪者にだってなれた。

頭の中も心の内も、いつだって薫でいっぱい。

その姿は聖母マリアのようだと思う。

なのに突然引き離されて戻された実の親はネグレクトのようだった。

薫の戸惑いを思うと胸が痛む。

そして希和子が腹を痛めたわけでもない薫を

どれほど細やかに大切に心をこめて育てたか、慈しんだか改めて思う。

小豆島のフェリー乗り場で捕まりながら希和子は叫ぶ。

「待って。その子は、まだ、朝ご飯を、食べてないの」

母親でなければ出て来ない言葉だ。

作者はどうしてこんなことを知っているんだろう。深い。

最後の方で「薫。待って、薫」と言う喜和子の姿にも涙がこぼれそうで困った。



人は子供を育てながら親になっていくけれど、全ての人が親になれるわけではない。

産んでも親になりきれない人もいるし、産めなくても親になる人もいる。

親子とは「血」ではなくて「歴史」であると思った。

家族とは何か、絆とは何か、そんな問いを投げかけられたような読後感。

引きずるように読み返す第一章の行間からは、切ないほどの愛が溢れていた。






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生ぬるい目で娘を見たら、うざがられた(--)




Commented by JOYママ at 2011-02-22 18:00 x
これ、ドラマになりましたね
珍しく、私見てました
原作読んでしまうと、駄目な部分もあるでしょうが
良かったですね・・・ドラマでも

お嬢さん、あと30年したら、母のありがたみが理解出来るかも
それまで、頑張って長生きしてください!(笑)
Commented by bera-sakuraebi at 2011-02-22 23:39
★JOYママさん★

私も見ました。
壇れいがとてもよかったです。
子役の子も可愛くて涙が出ちゃったよ。
原作とは違う部分もありますがあれはあれでよかったと思います。
主題歌の「童神」も利いてましたね~♪

あと30年・・・ムリ(笑)
Commented by ゆうゆう at 2011-02-23 07:50 x
これ読みました。最初の数ページで、
あー!角田ワールドって、ぞぞぞっとして
あとは一気読み。
希和子が逃げる場所逃げる場所で、
それぞれにいろんなことを考えさせられました。
角田さんのは短編集も大好き!ヽ(^^)
Commented by bera-sakuraebi at 2011-02-23 22:01
★ゆうゆうさん★

角田さん、読ませる作家ですね。
色々なことを考えさせてくれる作家です。
「八月の蝉」は
被害者の恵津子よりも加害者の希和子に感情移入しちゃいました。
読みながら何度「逃げて逃げて」と思ったか分かりません。
あのまま瀬戸内の静かな島で二人で生きて行って欲しかった。
続編とか出るといいのにな(笑)
by bera-sakuraebi | 2011-02-22 00:00 | | Comments(4)

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